「個人事業税」って、あまり聞きなじみのない税金だと思います。そんな個人事業税、字のとおり「個人事業主」を対象とした「税金」であることは直ぐにわかると思います。そんな個人事業税ですが、どのような税金で、どのような条件の人が対象となりいくら課税されるのかについて詳しく解説したいと思います。
個人事業税とはどんな税金
個人事業税は、日本における地方税の一種で、特定の事業を行う個人事業主に対して課される税金です。以下に、個人事業税について詳しく説明します。
個人事業税の目的
個人事業税の目的は、都道府県の財源を確保し、地域の行政サービスや公共事業を支えるためにあります。具体的な目的は以下の通りです。
地方自治体の財源確保
個人事業税は、都道府県が課税し、徴収する地方税の一つです。地方自治体は、道路や橋の整備、公共施設の運営、福祉サービスの提供など、住民の生活に密接に関連する公共事業を担っています。これらの事業を遂行するためには、多くの財源が必要です。個人事業税は、その重要な財源として活用されています。
公共サービスの維持・向上
個人事業税から得られた税収は、教育、福祉、医療、防災など、地域の公共サービスの維持や向上に使われます。具体的には、次のような用途が含まれます。
インフラ整備: 道路の整備や交通インフラの充実
- 公共施設の運営: 公園、図書館、文化施設などの維持・運営
- 福祉サービス: 高齢者や障害者への福祉サービスの提供
- 防災対策: 災害への備えや防災設備の強化
地域経済の安定と発展
個人事業税の徴収は、地域経済の安定化と発展にも寄与しています。個人事業主が地域で事業を行い、その事業活動から得た所得に対して税金を納めることで、地域経済全体の循環が促進されます。税収を地域に再分配することで、地域の活性化と経済発展を支援する役割も果たしています。
公平な税負担の実現
個人事業税は、特定の事業を営む個人事業主に課税されるもので、事業活動を行う人々に適切な税負担を求めるために設定されています。事業を行っている人が、その所得に応じて税金を支払うことで、税負担の公平性を確保し、社会全体の利益に貢献するという仕組みです。
個人事業税の目的は、都道府県の財政を安定させ、地域住民に対する公共サービスを充実させることにあります。また、税負担の公平性を確保し、地域経済の発展を支える役割も果たしています。こうした目的から、特定の事業を営む個人事業主に対して課税される仕組みが導入されています。
対象となる業種
個人事業税の対象となる業種は、法律で「法定業種」として定められており、第一種事業、第二種事業、第三種事業の3つのカテゴリーに分類されています。それぞれの業種の詳細は以下の通りです。
第一種事業(37業種)
税率:原則5% このカテゴリーには、多くの事業活動が含まれます。主要な業種は次の通りです。
- 物品販売業: 小売業、卸売業
- 製造業: 食料品製造業、繊維工業、機械工業
- 建設業: 土木建築工事、建築設備工事
- 不動産業: 不動産売買業、不動産賃貸業
- 運送業: 貨物自動車運送業、旅客自動車運送業(タクシー業など)
- 金融業: 銀行業、保険業、貸金業
- 娯楽業: 遊園地、映画館、劇場、パチンコ店
- 飲食業: レストラン、カフェ、居酒屋など
- これらの業種は、社会の経済活動の根幹を成すものであり、幅広く事業を営む個人事業主が対象となります。
第二種事業(3業種)
税率:原則5% 第二種事業は、限定された業種が対象で、主に次の3つの業種があります。
- 畜産業: 家畜の飼育や畜産物の生産・販売
- 水産業: 海面・内水面漁業、養殖業
- 薪炭製造業: 薪や炭の製造・販売
- これらの業種は、自然資源を利用した事業活動に関連しているため、特別な扱いを受けることがあります。
第三種事業(30業種)
税率:原則3%または5% 第三種事業には、多様なサービス業が含まれます。主要な業種は以下の通りです。
- サービス業: 理美容業、クリーニング業、広告業、貸衣装業、写真業
- 医療業: 病院、診療所、歯科診療所
- 電気通信業: 通信事業、電気通信サービス
- 職業紹介業: 職業安定所、人材派遣業
- 不動産仲介業: 不動産の売買や賃貸の仲介を行う事業
注意点
一部の業種は、特定の条件を満たす場合には課税対象から外れることがあります。たとえば、農業、林業、著作権収入を主とする執筆業などは、個人事業税の課税対象外です。
実際にどの業種が該当するかは、地方自治体や事業内容により異なることがあるため、詳細については都道府県の税務担当部署で確認することが重要です。以上が、個人事業税の対象となる主な業種の概要です。
個人事業税の税額計算の方法
個人事業税の税額は、事業所得をもとに算出され、業種ごとに異なる税率が適用されます。計算の基本的な流れは以下の通りです。
課税標準額の計算
課税標準額とは、個人事業税の計算の基礎となる金額です。以下の手順で求めます。
1.事業所得の計算
個人事業主が事業活動から得た総収入から、事業にかかった必要経費を差し引きます。
事業所得=総収入−必要経費
2.各種控除の適用
青色申告特別控除、専従者給与などの控除がある場合は、事業所得からそれらを差し引きます。
3.基礎控除の適用
課税標準額を求める際には、事業所得から基礎控除である290万円を差し引きます。
課税標準額=事業所得−290万円
※ 事業所得が290万円以下の場合、課税標準額が0円となり、個人事業税はかかりません。
税率の適用
個人事業税の税率は業種によって異なります。課税標準額に以下の税率をかけて税額を求めます。
- 第一種事業(物品販売業、製造業、建設業など)⇒ 5%
- 第二種事業(畜産業、水産業、薪炭製造業)⇒ 5%
- 第三種事業(サービス業、医療業、電気通信業など)⇒ 3%または5%
税額=課税標準額×税率
税額の計算例
例1 製造業(第一種事業、税率5%)の場合
総収入:1,000万円
必要経費:600万円
青色申告特別控除:65万円
事業所得:1,000万円 – 600万円 = 400万円
課税標準額:400万円 – 290万円 = 110万円
税額:110万円 × 5% = 5.5万円
例2 サービス業(第三種事業、税率3%)の場合
総収入:800万円
必要経費:400万円
青色申告特別控除:55万円
事業所得:800万円 – 400万円 = 400万円
課税標準額:400万円 – 290万円 = 110万円
税額:110万円 × 3% = 3.3万円
注意点
1.赤字の場合
事業所得が基礎控除(290万円)を下回る場合は、課税標準額が0円となり、個人事業税はかかりません。
2.複数の事業を営む場合
異なる業種で事業を行っている場合、それぞれの事業所得を計算し、合算してから課税標準額を求め、税率を適用します。
3.特別控除
各種控除(青色申告特別控除、専従者給与など)を適用する際には、正確な金額を把握して計算する必要があります。
このように、個人事業税の税額は「事業所得 – 290万円」の課税標準額に業種に応じた税率を掛けて算出されます。
「個人事業税」税金がかかる人、掛からない人
個人事業主の方々の中でも、個人事業税が「かかる人」と「かからない人」がいます。その個人事業税が「かかる人」と「かからない人」について、具体的に見て行きましょう。
税金がかかる人
個人事業税がかかる人は、以下の条件に該当する個人事業主の方になります。
1.法定業種を営んでいる人
個人事業税が課される対象業種を営んでいる場合、個人事業税がかかります。法定業種は以下の3つの業種に分類されます。
- 第一種事業 ・・・ 製造業、建設業、不動産業、運送業
- 第二種事業 ・・・ 飲食業、娯楽業
- 第三種事業 ・・・ サービス業、電気通信業、医療業
具体的には、製造業や小売業を営む人、不動産賃貸業を営む人、美容業やクリーニング業を営む人などが該当します。
2.課税標準額が基準を超える人
個人事業税は、事業所得から必要経費や各種控除を差し引いた「課税標準額」に対して課税されます。この課税標準額が290万円を超える場合、個人事業税が発生します。
例えば、年間の事業所得が500万円で、必要経費が200万円、青色申告特別控除が65万円の場合、課税標準額は235万円となり、290万円を超えないため、この場合は税金がかかりませんが、これを超えると税金がかかります。
3.確定申告を行った人
個人事業税は確定申告に基づいて計算されるため、事業所得を確定申告した人が対象となります。確定申告において、法定業種に該当する事業所得を申告すると、その申告内容に基づいて税務署から都道府県に情報が提供され、個人事業税が課税されます。
税金がかからない人
一方で、個人事業税がかからない人は、以下の条件に該当する個人事業主の方になります。
1.非課税業種を営んでいる人
特定の業種は非課税業種に該当するため、個人事業税がかかりません。主な非課税業種には、以下のようなものがあります。
- 農業 ・・・ 農作物の生産を行う事業
- 漁業 ・・・ 水産物の採取や養殖を行う事業
- 林業 ・・・ 林木の育成や伐採を行う事業
- 著述業 ・・・ 書籍や記事の執筆による著作権収入を得る事業(ただし、業務としての執筆業は除く)
- 自由業の一部 ・・・ 弁護士、税理士など一部の自由業は非課税となる場合があります。
2.課税標準額が基準以下の人
課税標準額が290万円以下の場合、個人事業税は課されません。この基準額は、全国的に統一されています。
例えば、事業所得が低く、必要経費や各種控除を差し引いた結果、課税標準額が290万円を超えない場合は非課税になります。
3.事業を始めたばかりの人
一部の自治体では、事業を始めたばかりの個人事業主に対して、個人事業税を一定期間免除する措置が取られることがあります。
例えば、開業から数年間は税金が免除される場合があります。
4.赤字の場合
事業が赤字で、課税標準額が0円またはマイナスとなる場合、個人事業税はかかりません。事業が利益を出していない場合、事業所得がなく、結果的に税金も発生しません。
個人事業税がかかるかどうかは、業種、所得、事業の規模などによって決まります。法定業種に該当し、かつ課税標準額が290万円を超える場合には個人事業税が課されますが、非課税業種を営んでいる場合や課税標準額が基準以下の場合には、個人事業税はかかりません。
まとめ
個人事業税とは、個人で事業を営む人が都道府県に納める地方税の一つで、主に都道府県の財源を確保し、地域の公共サービスやインフラ整備などに充てる目的で課されます。この税は、法律で定められた「法定業種」と呼ばれる特定の業種を営む事業者に適用され、業種は大きく「第一種事業」(製造業、建設業、不動産業など)、「第二種事業」(畜産業、水産業、薪炭製造業)、「第三種事業」(サービス業、医療業、電気通信業など)の3つのカテゴリに分けられます。課税対象となる業種に該当し、かつ事業所得から必要経費や各種控除を差し引いた後の課税標準額が290万円を超える場合に課税されます。この税金は、事業活動による利益に応じて負担を求めることで、地域社会の発展と公平な税負担の実現を図っています。